2009年12月26日土曜日

印刷発注者が求める自動組版システムとは?

2009.03:印刷雑誌(印刷学会刊)掲載論文(一部改訂)です。
1.自動組版の有用性
はじめに、自動組版のメリットを列挙してみる。
1) DTPソフト上でのコピーペースト作業を行わないので、制作スピードが圧倒的にアップし、コピペによるミスを避けられる。
2) 校正負担を軽減できる(原稿データの作成・管理の運用次第で)。
最新の情報を印刷物に表現できる(使用する自動組版ソフトの能力によっては、直前の価格のみの一括入れ替えなどが容易に可能)。
3) 校了データをお客様の求める形式のデータで提供できる(使用する自動組版ソフトの能力に依存するが)。
4) 上記の2)が実現できる自動組システムであれば、お客様の原稿作成負担を大きく軽減できる。
5) お客様側ニーズが高まっているワンソースマルチユース要求に応えられる。
6) 以上から、受注に向けた提案力がアップする。また、安定継続受注に結びつきやすい。

 自動組版のメリットを挙げるとだいたい以上のようなものであり、なかなか素晴らしい。それでは、何でもかんでも自動組版できるかというと、そうはいかない。

2.自動組版が採用されない理由
 次に、自動組版が採用されない理由を列挙してみる。
1) 効率面から判断して自動組版が不向き
・同一体裁の繰り返し出現があまりにも少ない制作物だから。
・一過性の受注でページ数が少ない制作物なので、自動組版のための前準備時間を費やすよりも、・マウスを使って作業を進める方が効率が良いから。
2) アウトソーシングを中心に業務設計している
・複数のパートナーに制作外注をしているため、自動組版のための新しい業務フロー構築に自信がないから。
・自動組版ソフトが高価なため、複数のパートナーが同じ環境を設備できないから。
3) 自動組版の前提となる入稿データの操作処理ができない
CSV操作、データベース、XMLなどの処理対象データに対する知識が不足しているために、自動組版の前提である入稿データ前加工への取り組み方が良くわからないから。
4) 何が自動組版に向いているか、何が不向きかの判断ができない
5)自動組版が適合する制作物の範囲はどうせ狭い。だから自動組版は考慮外にしてきた採用する自動組版ソフトによって、自動組版能力に大きな差異があるために生まれる誤解である場合が多い。ここでは、「大半の方々の想像を超えた数多くの自動組版事例が存在している」ことを確言しておく。
6) オペレータが手馴れた従来手法にこだわるから
7) 自動組ソフトが高いから

3.自動組版実施のボトルネック
 次の例に対しては、コピーペーストで処理している場合が多いと思われるが、いかがだろう。



 InDesign処理を前提にすれば、上の例なら、「項目結合と文字置換を行ってインライン画像としてテキストフレームに流し込めば良い」し、下の例なら、「項目分割を行って、分割後の各項目のテキストを画像ファイルパスに置き換え、テキストが無ければ他の画像ファイルパスに置き換える」というデータ加工ができれば、簡単に自動組版できる。
 このように、入稿データの前加工ができれば自動組版処理して極めて短時間で作業が終了するものを、そのスキルを持たないためにコピーペーストに頼るしか手だてが無く、膨大な時間と誤りリスクを含む作業を行うことになってしまう。
 私は、自動組版のボトルネックは「データ前加工ができないこと」にあると考えている。自動組版ソフトを名乗る限りは、どんな製品であろうと「テキストあふれの自動整形処理」はできるはずであるが、なかなかこのデータ前加工を豊富にサポートしているソフトには出会わない(当社製品はデータ前加工支援にこだわっている)。このため、上例や表組を含む自動組版を実施しようとするならば、①データ前加工機能が豊富な自動組支援ソフトを使う、②Excelのマクロ機能を徹底的に活用する、③プログラム言語を習得する、のいずれかを行う必要がある。自動組版という便利な業務フローを手に入れるためには、現在流通しているDTPソフトの能力を引き出すためのデータ前加工技術の入手に努めていただきたいと思う。
 ところで、自動組版の役立ちというものは、作業時間短縮とコピペによる誤りリスクの追放だけにあるのだろうか。この点を考えるために、原稿データ作成から自動組版、校了データの外部データ化までを求める自動組版ソリューションニーズと、その解決策を紹介していきたい。

4.直近の自動組版関連の相談事
 Page2009展後の2ヶ月で受けた印刷会社・制作会社からの相談事と、その代表例への解決策を紹介することで、自動組版によって「何が解決できるのか」を概観していくことにしたい。この概観によって、自動組版に対する「求め」のベクトルは、単純な生産性向上に止どまってはいない、ということを知っていただきたいと思う。
 以下に相談事を列挙する。なお、原稿データが揃っていて単純に自動流し込みすれば良いだけの例は列挙から除いている。

4-1. 書籍系・ドキュメント系自動組版に関するもの
1) 学術論文システム
 WordをXMLエディタとして使用(所定のXML DTD)
 InDesign自動組版
2) 地方自治体の広報誌制作システム
 役場でWord原稿作成
 印刷会社でInDesign組版をできるだけ自動化
3) 用語事典の原稿チェック支援&制作システム
 ・お客様にも公開する原稿DB開発
 ・複雑な索引の自動処理
4) 法令解説書原稿チェック支援&制作システム
 ・相互参照を含む自動組版
 ・InDesignデータのXML化
 ・相互参照リンクを含めてXMLをレイアウトイメージで閲覧できるWebビュア開発
5) 文中に表組を多く含む冊子
 ・Excelで表作成してInDesignに自動組版(Wordで表作成しても良い)
 ・Word(XML)中に表EPSを挿入→InDesign
6) Webを活用したword原稿データ収集&共有システム
7) マニュアルの多言語化システム
8) Illustrator図版の多言語化システム
9) 教材の短冊形データベース化と自動組み立てページアップシステム
10) 企業名簿自動組版(索引組版含む)
11) InDesign新聞組版システム
 ・InDesignと入稿テキストのシンクロが要求されている


4-2. ブロック組版系・商業印刷系自動組版に関するもの
ブロック組版系・商業印刷系自動組版」の相談事の多くは、表組ソリューションを求め、また、校了DTPデータと原稿データのシンクロを求めるものである。
1) 突然頼まれた500人の名刺の組版処理
 ・氏名字割をExcelマクロで行う
 ・複数のテンプレートをCSVの値を手がかりに自動切り替えして連続組版する
 ・テンプレート自動セットをExcelマクロで行う
 ・部署別の校正紙出力する
2) 商品・製品カタログ制作
 ・多言語化製品カタログ、編集データ戻しと校了データのCSV化を含めて4件の相談があった。
3) さまざまな体裁のスペック表を、スペックマスターから自動組版
 ・Excelを中間ファイルにした製品カタログの表処理案件相談が3件
4) 過去カタログデータからの表組テキストデータ抽出(2件)
5) 下版直前の料金表自動差し替え対応
6) チラシの価格と限定数量の自動差し替え対応
7) バーコード入り注文書(可変印刷)
8) 情報誌ページデータからのeBook用データ生成

以下、いくつかを例題として取り上げ、その解決策を、原稿データ作成データの前加工自動組版データ戻しの各局面から紹介する。

5.書籍系・ドキュメント系自動組版の解決策
段あふれ、ページあふれを伴う流し込み系組版を、お客様に利便を提供しながらシステム化する方策を、複数の著者が関与し、索引自動組と相互参照自動組が必要なページ物を例に考えてみる。ポイントは、XMLベースソリューションであること、原稿入力・編集にWordを活用することである。
【ソリューション1=印刷発注者に原稿編集支援機能を提供する
多くの執筆者と編集負担が存在するページ物の原稿作成には、編集負担軽減機能を提供することで、お客様サービスの質を向上させるとともに、印刷会社側の原稿整理負担も削減することが求められる。

【ソリューション2=原稿データ管理DBから自動組版したい
教材や辞書事典類、年鑑などは、多くの著者からの原稿が存在するのであるから、データベースで原稿管理しなければいかにも効率が悪い。しかし、データベースを活用する意義は、単に原稿管理の効率アップに止まるものではない。
データをXML化してデータベース管理を行うことによって、次のようなプラスアルファが得られる。



6.ブロック組版系・商業印刷系自動組版の解決策
「ブロック組版系・商業印刷系自動組版の相談事の多くは、表組ソリューションを求め、また、校了DTPデータと原稿データのシンクロを求めるものである」、と先に書いた。これは、特に、商品・製品カタログ制作に顕著な「求め」のようである。ここでは、本格的商品データベースを使わないで商品・製品カタログを自動組版する方法を紹介して、どのようにしたら、
・表組とその直前修正対応、
・校正赤字を元の入力データに戻すことができるか、を考えていきたい。なお、下記のうちのExcel表組データ処理は当社製品であるMy Excel serverの使用を、自動組版関連はMy AutoPubの使用を前提としているが、他社製自動組版ソフトで処理してもかまわない。


4.さいごに
 自動組版に対する現実のニーズは、単純に生産時間の短縮、コピペによる誤りリスクの追放に止まらず、お客様=印刷発注者との新しいコミュニケーションの実現や入稿データと組版データの同期によるデータ再利用性の獲得までを求めていることを、お伝えできただろうか。私は、「お客様は、原稿作成支援とデータのマルチ利用を望んでいる」と考えているし、その前提となる「入稿データと組版データの同期を実現する業務フロー構築を要求するプレッシャー」はますます強まると思っている。

自動組版をいろいろな角度から分類してみました

過去のセミナーで使った資料です。ソースデータや自動組版を必要とする理由、自動組版ソフトの系統などで分類しています。

【PDFファイル】
http://www.openend.co.jp/pdf/typeofAutoPub.pdf

新会社で自動組版ソフトを開発するに至った経緯

新会社設立に至った経緯  (2008.01.01)
DTP関連システム分野で20年間経営してきた株式会社シンプルプロダクツと株式会社フレイマーグループを、富士フイルム株式会社に売却した後、短い期間ですが大会社傘下の社長を経験しました。ベンチャー企業の経営と、大会社傘下企業の経営の両方を体験することで、改めて、若くして会社を創業して以来、自分流だけで走ってきた二十数年間を振り返ることができたと思っています。この振り返りを通じて、引退を考えることもありましたが、むしろ「やり残し」を悔やむ気持ち、「挑戦を続けたい」という気持ちの方が強まっていきます。元々、無趣味だからかもしれませんが。

 そこで、「自分がやり残したと思っていることをやる」とだけ決めて、印刷関連市場向けの「レイアウトソフトに連動したDBMSパッケージソフト」と「ドキュメント関連ソリューション」を軸に展開する新会社を設立いたしました。「やり残し」は、データベースを活用した組版・レイアウトと最新のWeb環境を前提としたドキュメントマネージメントの、もっともっとの普及・定着活動の推進に他なりません。

 自前の組版エンジンを前提にしたビジネスから解放された今は、以前より遙かに自由な発想でソフト製品やソリューションを企画することができるはずです。無償ダウンロードソフトとしてリリースする「DB連動InDesign組版ソフト OpenPublisher」と、「文書共有&集配信システム Share Base」を最初の一歩として、私を育ててくれた印刷関連業界、ドキュメント業界に恩返しをしながら、新しいビジネス領域を開拓して行きたいと思っています。

社名の由来
オープンエンド、これを直訳すれば、「終端が開いている」となるでしょうか。ここから「考えることを閉ざさない」という授業のあり方をオープンエンドと表現したり、脳の働きのエンドレス性を示す用語として使われたりしています。「終わりだと思っていた地点は、次に現れる学びの課題、挑戦の課題を発見する地点だ」を肝に銘じようと、社名をオープンエンドとしました。
ビジネス理念
ドキュメント関連システム開発の先頭を走り、良質な即戦力パッケージソフトとソリューションを最短時間、良心的料金で市場投入していきます。